ウンブリア州に見るアグリツーリズモの現段階

第245回 イタリア研究会 2000-11-25

ウンブリア州に見るアグリツーリズモの現段階

報告者:千葉大学園芸学部助教授 大江 靖雄


第245回イタリア研究会(2000年11月25日 六本木・国際文化会館)

大江 靖雄 千葉大学園芸学部助教授

「ウンブリア州に見るアグリツーリズモの現段階」


 

司会それでは第245回のイタリア研究会を始めたいと思います。本日の講師は千葉大学の園芸学部の助教授でいらっしゃいます大江靖雄先生です。80年に北海道大学の大学院環境科学研究科の修士課程を出られまして、85年から98年まで農林水産省の農業試験場勤務。94年から在外研究員としてウンブリア州などで研究を重ねられております。「ウンブリア州のアグリツーリズモの現段階」というテーマでお話をして頂きます。ペルージア大学にチアニ教授がおりまして、共同研究をされています。それではお願いしたいと思います。



大江 こんばんは、ご紹介いただいた大江です。イタリア研究会にお招きいただき光栄です。それではOHPを使って説明をしたいと思います。最初OHPを使って、その後若干スライドをお見せしたいと思います。今ご紹介頂いたように、私は、98年の4月から千葉大学の園芸学部というところで働いております。それ以前は、農林水産省の研究機関におりました。農業経済、農村経済学という分野が専門なのですが、これは、新しい都市と農村のあり方を研究する分野です。農村の過疎化がこれだけ進んでいる一方で、都市の過密、それから少年犯罪、都市生活のいろいろな問題が出てきているということで、日本の社会というのは、都市とのバランスがあまりよくないと思うのですね。それをこれから21世紀も始まることですので、新しい形の都市と農村をいかに作っていくのか、そういうことを農村サイドから研究する社会科学の分野なのですが、そういったことを私の研究対象にしております。そういう点から、日本ではグリーンツーリズムと言ったり、農村ツーリズムと言ったり、いろいろな言葉があるのですが、都市と農村とのアンバランスを多少なりともうまく是正するといいますか、直していく役割を、このグリーンツーリズム、農村ツーリズムというのが果たしうるのではないかということで、私はこの7~8年になりますが、取り組んでおります。


それで、イタリアと関わるようになったというのは、非常に偶然的なことがありまして、今日もお話をするペルージア大学のチアニという、この間7月にイタリア大使館のセミナーがありまして、彼も来たのですが、ご出席になった方もおられるかもしれませんが、93年にハンガリーで学会がありまして、その時に初めて、まったく初めて学会のパーティの席上で彼と会いまして、それでお互いに自己紹介を兼ねていろいろな話をしていたら、こういうアグリツーリズムの問題に興味があるということがお互いにわかりました。それで一緒に共同研究を始めようということで、そこから話がスタートしました。その次の年に私がフェローシップをうまく取れたものですから、そこから共同研究が始まったということです。それ以来行ったり来たりお互いにしております。


いうことで、彼がウンブリアのペルージアにいるものですから、どうしてもウンブリア州が研究対象になります。今日、例えばグリーンツーリズムだとか、アグリツーリズムだとかというのを、初めてお聞きになる方もおられるかもしれませんので、今日のお話は、まずこういったグリーンツーリズム、農村ツーリズム、私いろいろな言葉を使ってしまいますが、基本的には同じようなことです。それがいったいどういう背景を持って今出てきているのか。その意義は何なのか。というようなことをまず簡単にお話します。その後に、イタリアのアグリツーリズモの全体的なお話をさせて頂きます。その後にウンブリアのもう少し突っ込んだお話をさせて頂きます。私はそういうことでイタリアも大好きなのですが、もちろん日本人ですから、日本の農村問題といいますか、都市と農村の関係、これからどうなっていくのかということが、私の一番の関心事であります。関心事というか、ライフワークになると思います。そういうことで、最後にそれが、今後の新しい日本の都市と農村の関係に、どういうヒントが得られるのかということをお話して、結びにしたいと思います。



農村ツーリズムの意義と背景




まずこういったグリーンツーリズム、ルーラルツーリズムといったものが出てきた背景というものを、まずお話しておきたいと思います。日本でもバブル経済の時に、大きなリゾート開発というのがかなり積極的になされたということはご存知だと思います。それがバブルがはじけて、今リゾートマンションなどで空き部屋がたくさん出て、不良債権化しているというのはご承知のとおりです。こういう大規模なリゾート開発、外から資本を大規模に導入して、コンクリートの箱物といいますか、上物を作っていくというようなイメージがあるものですから、これをハードなツーリズム、ハードツーリズムというふうに呼びます。最近の研究では、こういうハードツーリズムの経済的な波及効果というのは、思ったほど大きくなかったということが、いろいろなところで研究されて発表されています。  さらにもっと問題なのは、環境調和的ではなかったということですね。例えばごみ問題だとか、そういう問題が、それから大規模な開発を行ないますので、環境破壊も当然生じることで地域の環境を破壊してしまうというようなことも、反省としてできているわけです。さらに、最近の日本で、よく旅行業界などではご承知の通りなのですが、「安、近、短」という思考が出てきているということで、安くて近くて短期間でということで、旅行の形態が変わって来ているという、傾向があります。


そこで新しい形として、ソフトツーリズムというのが最近90年代に入ってから言われるようになりました。これはハードなツーリズムに対して、地域の資源を使って環境調和的な考え方で、観光開発をしていこうという考え方です。「サステイナブル・ツーリズム」という言い方や、「持続的な観光」という言い方もされています。この背景にはこういった問題に対する反省、それから都会の人達が農村のアメニティ、農村の自然景観だとか、農村の食べ物だとか雰囲気だとか、そういったものに指向性を持つようになったということがあります。日本ではそれをグリーンツーリズムというふうに、農林水産省が言い出していますが、平成7年にグリーンツーリズムの法律ができました。そこではグリーンツーリズムというのは、田舎に行って、田舎の人との交流をしながら、滞在して余暇を過ごすというのが、このグリーンツーリズムの基本的な考え方になります。ですから農村へ行って、そこで泊まってくるというのがグリーンツーリズムの基本的な過ごし方ということになります。



それでグリーンツーリズム、あるいはルーラルツーリズム、アグリツーリズム、いろいろな言葉があります。国によってもいろいろ違うのですが、いろいろな規定がされていま


す。ですからその辺、言葉の混乱があるというのが事実なのですが、基本的に同じような


ものというふうに考えていただいて結構です。私は、グリーンツーリズムが持っているポテンシャルというのは、非常に大きい意義があるのではないかと思っています。


図1で、グリーンツーリズムの意義を説明しましょう。従来の都市と農村の関係というのは、田舎から、丸い円を田舎だとしますけれども、こちらの四角形が都会だとしますね。丸い田舎から四角い都会に、農産物を出してくるというそういう都市と農村の関係だったと思います。それがお金になるということだったと思います。しかし、グリーンツーリズムという新しい形の活動が出てくることによって、単に農村側からは農産物を売るというだけの問題ではなくて、都市から人を呼び寄せることができるということで、言ってみれば矢印がもう一つ逆向きに加わるという、新しい形が成立してくると思います。つまり私は農業サイドの人間なものですから、農業サイドに立って考えることが多いのですが、そういうことで、農家の生産物、あるいは農村側の生産物というのは、従来のものだけではなくて、人が田舎に来て、そこに泊まったり、食べたりして、あるいは遊んだりしてもらうということで、いわゆるサービス的なものを提供するという、そういう活動も視野に入ってくるということになります。


したがって、これがこれから21世紀の新しい都市と農村の関係として、この流れをもっと強くしていく、そういうことが都市と農村のバランスのとれた発展ということを考える場合に、大変大事になってくるのではないかと思います。その意味で、グリーンツーリズム、ルーラルツーリズムが果たす役割というのは、非常に大きなものがあるのではないかというふうに私は考えています。それがグリーンツーリズムの持っている、その社会的な意義ではないかと思います。



しかし、グリーンツーリズム、あるいはルーラルツーリズムと言っても、田舎で昔から民宿などがあったではないかということがありますね。例えばスキー民宿というのは、農家の人が、冬の農閑期に農業ができないので、スキー客を相手に民宿をやっていたりしたことがあります。これは日本でもそうですし、例えば長野だとか、私が前働いていた広島などでもそういうのがありましたが、これは日本だけではなくて、ヨーロッパでも、例えば北イタリアのアルトアディジェ、昔南チロルと言われたようなオーストリアのドイツ語系の人達が住んでいるようなところでは、スキー民宿が昔からなされていたわけです。こういった民宿等を、私は古いタイプのルーラルツーリズムというふうに考えております。今新しい形でアグリツーリズムとかルーラルツーリズムと言われているのは、これとは若干区別すべきではないかと思います。


それでは、何が違うのかということなのですが、1つ大きな違いというのは、この古いタイプのルーラルツーリズムというのは、農家に田舎に行くということ自体が目的ではなくて、例えばですね、スキーをするということが目的で、スキーをするためにたまたま農家の民宿に泊まるということですね。だから田舎に来るということは、田舎の雰囲気を楽しむということよりも、スキーということが目的だったということで、田舎に来て農家に泊まるということは2次的な目的であったわけです。したがって、そこでは要するに安く泊まれればいいということがありますので、農家の方もサービスを提供するという気持ちもあまりなかった。安かろう悪かろうみたいな、そういうようなところだったと思います。これをダウンマーケットと言いますが、要するにあまり高級化していないマーケットということですね。あまりクオリティの高くないマーケットということです。



これに対して今ヨーロッパ、それから日本でも起こりつつあるルーラルツーリズムというのは、もう少しアップマーケットといわれています。これはお客になる人達というのが、中流階層であるということですね。中流より少し上、今日はお話できませんが、日本でも同じようなことが言われていまして、分析をした結果によりますと、学歴の高い人達がこういったルーラルツーリズムに非常に興味を持っているという結果が出ています。これはヨーロッパでも同じような結果が出ておりまして、中流階層、学歴所得が高い人達がこういったものの指向性を持っているということがわかってきています。こういった人達のニーズも、かなり本格化している、つまり、田舎のものが好きだ、田舎のものを求めて農家に来て、そこに泊まりたいということで、最初から農家に来ること、田舎に来ることというのが目的になっている、本格的なものになっているということですね。ニーズもいろいろなことをしたいというニーズを持っています。おいしい田舎のものを食べたい、あるいは田舎でのんびりしたい、あるいは動物にさわりたい、あるいは田植えをしたいとかですね。農作業をしたいとか。そういうことでいろいろなニーズが、田舎に関するいろいろなニーズが出てきています。そういうことで、総合的なサービスの提供というようなことが非常に大事になってきているということで、今私たちが注目しているのは、この新しいルーラルツーリズムであります。



イタリアのアグリツーリズモ




次に、イタリアはではどういう特徴があるのかということをお話したいと思います。日本ではグリーンツーリズムと言いますが、イタリアではアグリツーリズモと言います。英訳するとアグリツーリズムになります。それで、一番の特徴は、これはイタリアだけの特徴なのですが、アグリツーリズムとルーラルツーリズムというのを、法律で区別していることです。アグリツーリズムというのは、農家だけができる観光的な活動。例えば、宿泊施設を作ったり、レストランをやったり、あるいは乗馬サービス提供したり、そういうようなことですね。つまり、農家が観光的なサービスを提供するということがアグリツーリズムになっていまして、それ以外、例えば都会からUターンで入ってくる人、それが田舎で、日本流に言うとペンションみたいなことをやったりしますね。そういうのはルーラルツーリズムになります。つまり、農家以外の人がやる場合は、ホテルとかレストラン、ペンションなど、そういうものはルーラルツーリズムといって、区別されています。保護の対象になっているのはアグリツーリズモ、ルーラルツーリズムは一般のホテル並みに扱われるということです。両者を分ける違いというのは、農業があるかないかということの違いです。



ひとつめがそれなのですが、もうひとつの特徴というのは、比較的その歴史が新しいということですね。西欧の先進国の中では。ドイツ、フランス、それからイギリス、こういったところは非常に歴史があります。アグリツーリズム、それぞれルーラルツーリズムとかファームツーリズムとかいろいろな言い方が国によってありますが、法律ができたのも早いですし、もう30年、40年の歴史をもっています。それに対してイタリアのアグリツーリズムは、まだ15年くらいしか歴史がないということがありまして、日本も平成7年ということですから、日本が参考にするには、ちょっと先にいっているということがありまして、ちょっと先の先輩格としてのイタリアということで、そういう点でも参考になる点があるところがあります。ということで、比較的後発で、発展過程にあるというところが、イタリアの2番目の特徴です。


それからもう1点、イタリアの特徴というのは、ご承知のとおり、地域的な多様性があるということですね。これはイタリアの文化の多様性、地域的な多様性というものがそのまま反映されておりまして、具体的なアグリツーリズムの制限というのは、ベッド数で制限されるのですが、州によってこれは違います。例えば北の方のトレンティーノ・アルトアディジェでは12ベッド。それから中部のトスカーナとかウンブリアでは30ベッドというような制限がありまして、西欧はどこの国でもベッド数でこの上限というものを決めています。それ以上になると、一般のホテルと同じような扱いをされます。つまり、税制面での優遇措置がなくなるとか、補助金がなくなるとか、そういうようなことです。イタリアも同じなのですが、ただ、州ごとにそれが違っているということで、地域的な多様性があるというところが特徴であります。



それをもう少し具体的にみてみましょう。だいたい大きく分けて、北部、中部、南部という風にイタリアの場合には分けられるというのはご承知の通りなのですが、地域的にかなり特徴があります。先程の北部のアグリツーリズムというのは、オーストリアのアグリツーリズムの影響を受けておりまして、これは非常に歴史が古くて、40年近い歴史があります。オーストリアは非常に規模が小さい。だいたい10ベッドが上限になっていますので、そういう影響を受けて、規模が小さいです。農地の規模も小さいということもあって、伝統的なスキー民宿から発展していった、そういう形が結構あります。民宿の数から言うと、アグリツーリズムの農家の数から言うと、北部が非常に多いのです。


これに対して、中部はどうかと言いますと、中部は現在アグリツーリズムの中心的な地域になっております。イタリア人がアグリツーリズムと聞いて連想するのは、今はだいたいトスカーナとウンブリア、だいたいトスカーナが一番目に来ると思いますが、だいたい2000軒くらいの農家がここで営業しております。ということで、今イタリアのアグリツーリズムに関する成長センターというのが、中部、トスカーナとウンブリアということになります。私たちが調査した中では、後でまた具体的な数字を見て頂きますが、新規参入者が非常に多い。新規参入者、わかりますでしょうか。UターンとかIターンという人達ですね。これが非常に多いということです。つまり都会へいったん出ていって、また田舎に戻ってくる人、あるいはまったく田舎に縁がなかった人たちが田舎に入ってくる。そういう人達が非常に多いということです。私たちが調査した中では、4割以上がこういう人達でした。中部ではこういった人達がかなり地域の活性化というものに貢献しているということで、都会の人達の大きな仕事を提供する場になっている。これを、就業機会と言いますけれども、そういう場になっているというところが、これが急成長している1つの背景だというふうに考えています。


それから南部はどうかと言いますと、南部はいろいろな問題があって、例えばシシリーですと、一般の観光業者の反対があって、アグリツーリズムの州法の成立が非常に遅かったということがありまして、ポテンシャルとしてはないとは言えないのですが、今後の発展が期待されるということで、大規模経営が非常に多いものですから、大規模経営を中心にして、今後発展するだろうというふうに考えています。



イタリアはアグリツーリズムを推進する民間の団体が実は3つあります。これはご承知の方も多いと思いますが、イタリアの場合には何でも労働組合でも放送局でも、いろいろな組織が政治的に色分けされていますが、ジャーナリズムもそうですね。農業団体も例外ではなくて、保守系、中道系、左翼系ということで、今はイタリアも政界再編で、いろいろごちゃごちゃになっていますが、大まかに言うと、こういうことになります。アグリツーリストというのが一番大きな保守系の最大組織です。これは今朝調べたのですが、WEBサイトで調べると1250戸登録されていると書いていました。確かにアグリツーリストが出しているガイドブックが一番厚いです。それぞれにガイドブックを出しています。中道系はテラノストラ、私たちの土地という意味です。それから、これはグリーンツーリズムという意味ですがツーリズモベルデ、左翼系ですね。それぞれロゴマークを作っていまして、ちょっと統一が取りにくいというイタリア的なところがあるのですが、一応全国組織としてコナグリツールという協議会の組織があります。ただこれは基本的にはそんなに大きな役割をしておりません。実質的にはこの3組織がそれぞれに組合員、登録農家を抱えて、それぞれのプログラムを実施しているというのが実情です。農家によっては、これに全部に入っている、登録しているアグリツーリズムの農家もあります。ですから登録数はダブルカウントになっている場合が結構あると思います。組織としてはこういうことです。ちなみに日本の場合には1つでやっているということで、それに比べるとその辺が少々イタリア的なところであります。



それで今何が問題になっているかというと、アグリツーリズムが非常に盛んになって、人気が出てきたということで、ルーラルツーリズムとの競合が非常に激しくなって来ています。客の奪い合いみたいなものが、コンペティションと言いますか、競争が激しくなってきているということで、そこでアグリツーリズムの今申し上げたような団体では、やはり差別化をしなければいけないということで、アグリツーリズムだけが国土保全機能を持っているというようなことを言っています。だから私たちは補助を受ける権利があるのだということを主張しています。つまり農地を耕作するということは、国土の保全を図っているのだということで、そういう主張をしています。それによって、ルーラルツーリズムとの差別化を図っている。つまりアグリツーリズム農家というのは、公益的な機能を果たしているということで、公的な支援を主張する論拠としているということです。


これは農家にとっても悪いことではありませんで、非農業のペンションやホテルなどと競争をすることによって、逆に自分たちが農家であるというアイデンティティを確立しているという、そういう効果もあります。つまり、新しい農家としての活動のあり方を見出していく、例えば後でお見せしますが、古典的な作物であるワインとかオリーブ、そういったものにあらためて注目し、自分たちの持っている素材の良さというものを再認識するという効果があります。それによって、更に自分たちの農家としての競争力を強めているという効果もあるということです。これはイタリアのアグリツーリズムとルーラルツーリズムとの競争が激しくなることによって、更に自分たちも向上していくという、そういう効果があるということは大事なポイントだと思います。


それから、最近どういうふうになっているかと言いますと、やはり次第に競争が激しくなってきていることによりまして、採算を取れるレベルというのが上がってきてしまっています。規模を拡大しないと、つまりベッド数を増やさないと太刀打ちできないとか、そういう状況にもなっている。それから、レストランを併設して、お客をたくさん呼ばなければいけない、そういうような状況にもなっています。つまり規模拡大と、それから更に多角化を進めて、それによって収入の増加を図ろうとしています。レストランの経営が増加しているのですが、これはいわゆる観光業特有の需要の波があり、ほとんど夏場のバカンスシーズンに集中しますので、冬はほとんど閑古鳥が鳴いているということがありまして、レストランを作ることによって、日帰り客、特に週末の日帰り客を収穫しようという効果をねらっています。つまり、多少なりとも需要の上下の大きな波をならそうという効果もあります。


いうことで、イタリアのアグリツーリズムというのは、企業的家族経営の農家版というふうに私たちは見ています。中小企業はイタリアは非常に元気がいいということはご承知の通りだと思いますけれども、そういう家族的な企業経営、それの農村版だというふうに私たちはアグリツーリズムを見ています。その活動の活発さというのが、アグリツーリズムの魅力を支える要因になっているのではないかと思います。



それでアグリツーリズモ農家数の推移を見てみますと、これはアグリツーリストのデータなのですが、6000軒から98年に8500軒に伸びているということで、成長過程にあるということです<SPAN lang="EN-US">(表1)。13年くらいの間に、ベッド数で見ると倍以上になっているということです。それで1戸あたりのベッド数というのは14.7になっています。ベッド数が今申し上げたように拡大している。それからもっと特徴的なのは、先に述べたような理由からレストランを持つ農家数が多くなっているということですね。その他、乗馬サービスを提供したり、それからキャンプ場を併設したりというようなことで、経営の多角化を図っているということであります。外国人の割合も20%近くになっています。


表2は比率で見たものですが、レストランを持っている農家数というのが5.5倍になっているということがありまして、キャンプ場が2倍、それから乗馬を提供しているのが2倍などですね。中でもレストランを設けている農家が一番増加しているということです。それによって3.7倍くらいの評価と収入の増加がもたらされているということです。


では、農家側がこういうことでやっているのですが、お客さんはどういう目的でアグリツーリズムに来るのかということなのですが、それを調べると、田舎の静けさ、これは私どもではなくて、アグリツーリズムの団体が調べた結果なのですが、やはり田舎の静けさとか、自然への関心といったものがかなりの割合を占めています(図2)。つまり、彼らお客さんたちというのは、田舎に来るということが目的で来ているということが特徴なわけです。日本の民宿でこれを取りますと、経費を少なくしたりという目的が多いのですね。ですから、イタリアのアグリツーリズムというのはこういうところで勝負しているというのが特徴だと思います。だからといって、必ずしも農業に対して関心を持っているわけではありません。農村文化に対してもそれほど関心が高いわけでもないということで、むしろそれよりも、農村の持っているアメニティ、そういうものが売りになっているという点が、ここから読み取れる重要な点だと思います。ただし、1度そういうところに来ると、こういうものに対するお客さんたちの興味というものが沸いてくるということで、農業とか農村文化などは、確かに積極的にお客さんを引き付ける要因ではこれらはありません。しかし、滞在を印象づけて、リピーターにしてくれる、そういう要因としては、決して無視できないというところだと思います。ですから、農村アメニティというのは、人を引っ張る要因として、それから農業、農村に関する要因というのは、それを更に印象を良いものにして、思い出深いものにしていく役割を果たす要因だと思います。



ということで、いくつか具体的にスライドをお見せしたいと思います。1つお見せする


のは、先程お話したトレンティーノ・アルトアディジェですね。ドイツ語が話されている地域で、ドイツ語圏ですので、ドイツ語圏からのお客さんが非常に多いところです。まずこの北部のトレンティーノの農家なのですが、彼が息子さんで、お母さんですね。目元がよく似ていたのですが、彼は25才でした。3年前ですから、婚約者がいると言っていましたが、彼の農家は、この辺の農家同様に規模が小さいのですね。5ヘクタールの農家ということで、この辺は非常に規模が小さいところですね。というのは、こういうふうに山岳地帯なものですから、大きな面積が経営できないということです。それでぶどう農家でした。ワインを作っているわけですが、シャルドネなどを作っていると言っていました。これが彼のいるところなのですが、民宿兼住居ですね。お客さんとしてはやはりドイツ語圏の人が多かったです。これは朝食で、自分のところで獲れたりんごなどを加工したパイみたいなものを出してくれました。ということで、北部はこういった感じで、ベッド数も10ベッドというような、非常に規模の小さい農家です。



それに対して、こちらの農家はシチリアの農家です。彼は農家の生まれなのですが、Uターンをして自分で始め、お兄さんと共同で経営している。お兄さんは事業をやっているのですが、彼は農業が好きなので、農家を始めた。有機栽培の農業を始めている。小麦をここに植えると言っていましたが、かなり傾斜がきついところですね。プールなどがあったりしていますが、古い廃屋を買い取って改築をしています。65ヘクタールの経営をしています。彼の経営、特徴的なのは、非常に料理がおいしいという評判がありまして、これは土曜日でしたけれども、シチリアのパレルモから1時間くらいのところなのですが、1時間くらいの山の中ですが、パレルモあたりからお客さんが、昼時にお客さんが来るということで、レストランが満員になるという状況でした。私が行ったのがちょうど冬だったものですから、レストランの収入を冬場の収入源にしています。宿泊客は冬場にはほとんどいないということを言っていましたが、冬場はこういうことで、お客さんを集めているということです。



これがウンブリアの農家なのですが、この農家は新規入植でした。ホテルマンとして、ミラノのホテルで働いていた。そのお金で、自分が、有機農業をやりたいという希望がありましたが、有機農業だけでは食べていけないので、アグリツーリズモを始めたという、農家です。これも廃屋を買い取って、3ヘクタールくらいの小さな農家ですが始めた。馬を飼って、これは奥さんですが、乗馬のサービスを提供しているということですね。この農家もやはり新規参入の農家で、アーチェリーなどの施設を特に整備していまして、アーチェリー好きを呼ぶようにしているということです。また、いろいろなジャムだとか、これプロシュート・クルードのもも肉を売っています。こういうふうに直売をすることによって、収入源につなげているということです。これは別の農家ですが、うさぎの肉を自分のところで加工して、料理に提供しているということで、最近衛生基準が非常に厳しくなってきたので、こういう設備をしなければいけないのだということを見せてくれました。



ウンブリア州のアグリツーリズモ


3地域ばかり見て頂きましたが、次にウンブリアの話をさせて頂きます。ウンブリアは先ほど申し上げたような、トスカーナに次ぐ成長センターになっています。ウンブリアもその南隣ということで、ご承知のトスカーナブームの波及効果の恩恵をこうむっているというのが、ウンブリアでもアグリツーリズムが盛んになっている一つの理由だと思います。


 また、ウンブリアもご承知のとおり、いろいろな観光地があります。そういったところにお客さんが集まるということがあります。先程申し上げたような新規参入者が多い。それがアグリツーリズムを活発にしているもう一つの要因にもなっているのですね。さらにもう一つは、州政府や県の政府が、文化的なイベントに非常に熱心に取り組んでいます。これによって、いろいろなイベントを年間いくつも次々に組んでいく。例えば有名なのは、ウンブリア・ジャズフェスティバルというのを夏に毎年やっています。最近はそれを冬にもやるようになっていまして、ウンブリア・ジャズ・ウインターというもやったりしています。それから後はクラシック音楽のイベントもやったりしています。その他いろいろな文化的なイベントを年間次々企画しておりまして、企画とそのバックアップをやっていまして、そういうところがかなり有効に集客力を高める要因になっています。日本ではどちらかというと、政府のやることというのは、上物を作って補助金を出すということが多いのですが、ウンブリア政府のこういうやり方というのは、やはりソフト面から支援していくという、それも文化的なところに特化していくということで、それにより地域全体のイメージを高めていく、そしてイメージを高めると同時に、集客力を高めていくという点に関しては、かなり見習うべきところではないかと思っています。


ウンブリアのアグリツーリズモがどういうふうに成長しているかということなのですが、こういう64軒だったのが、10年後に427軒ということで、ものすごい成長をしています(表3)。これをグラフにとってみますと、だいたい毎年50軒くらい増加しています。ウンブリアで農家数がだいたい4万5千軒ですから、アグリツーリズモをおこなっている農家は、1%くらいにもうなっているということです。ヨーロッパ全体では、だいたい3%から5%がアグリツーリズムの農家だということが言われていますので、ウンブリアでも2000軒くらいまではいくのではないかと言われています。427軒というのは実際に許可された農家なのですが、申請がもうすでにかなりたくさん次々に来ていまして、この2000軒くらいにはいくだろうと予想されています。ただし、その分競争が激しくなるということがあると思います。規模も少しずつ大きくなっています。部屋数がだいたい6部屋くらい。それで、ベッド数は13ベッドくらいになっています。アパートメントで3つくらいになっている。部屋とアパートメントというのは違います。アパートメントというのは離れで、英語でいうフラットですね。別棟ですね。ルームというのは母屋の中に部屋を改造してお客さんを受け入れている。その違いです。




これはウンブリアの地図と、アグリツーリズムの発展がどういうふうに広がっていったのかというのを分析してみますと、だいたい観光地、主な観光地アシッジ、それからペルージア、ラーゴ・トラシメノというイタリアで第3位の湖があります。他にもオルビエート、それからスポレート、グッビオなど、有名なところがたくさんありますが、こういったところの周辺からアグリツーリズムはどんどん広がって、今はほとんど州全域をカバーする位に広がってきています。ですからこの点は日本でもグリーンツーリズムを振興する場合に、観光地の周辺から始めていくというのが適用できるのではないかと思います。やはり観光地の周辺というのは、お客さんがたくさん集まるので、見るところもたくさんあるということで、アグリツーリズムの農家も営業しやすいという、営業上の有利性があるということだと思います。


構成割合でみると、アパートメントがだいたい4割5分位です。今少し減っています。それから部屋のみが2割5分位だったと思います。アパートメントと部屋を両方おこなっている場合がだいたい3割近くになってきているということで、やはり規模を拡大するということがあって、アパートメントと部屋を両方やっている農家というのが次第に増えてきているというのがあります。


アパートメントというのは、キッチンがついていて独立しているので、お客さんたちが自分たちで好きなものを作って食べられるということがあります。部屋の場合にはキッチンがないので、自分で料理はできないということになります。例えばアベックだとか、独立して、離れで人とあまり接触したくない人はアパートメント、ふれあいをもとめる家族連れなどはどちらかというと部屋を好むというように、お客さんの指向性によって、そういうタイプ別の特徴があります。それは事前にカタログなどで選んで、お客さんがやって来るということです。


どういう農家が中心的な活動になっているかと言いますと、中規模層が中心的な活動になっているのです。結論から言うと、大規模層というのは、例えば1000ヘクタールのなどの農家がありますが、これらは資金力が余っている、お客さん用に使える施設もあり、部屋もたくさん持っているのですが、やはりお客さんの面倒を見るだけの労働力がない。手間がかかってしまうから、やはり面倒くさくてやれないというのが、大規模農家です。小規模農家というのは、労働力は家族労働力で十分賄えるのですが、いかんせん資金力とか空いている部屋があまりないというようなことがあって、あまり積極的ではありません。ということで、結局アグリツーリズムの振興策というのは、必ずしも小規模農家の対策にはなっていないということがあります。


そういうところでバランスが一番取れているのが中規模農家。資金的にも遊休施設もあるし、それから労働力的にも十分対応できるというようなことがあって、中規模層が今はかなり積極的な活動をやっています。単にお客さんを泊めるだけではなくて、レストラン、それから先程お見せしたようないろいろなものを、オリーブとかワイン、その他いろいろなものを売っているということですね。所得源を多様化して、それによって差別化を図って、リピーターを確保しているというのが、こういった中規模農家が積極的にやっていることです。


それで、これは分析結果ですが、要するに、だいたい中規模、そして中規模より少し大きい位が一番積極的だというのを示すのが表4です。ベッド数でも一番規模が大きい。20ベッド近くやっているし、それからいろいろな品目を売っている。オリーブ、ワイン、ジャム、ハニー、それからプロシュート等いろいろなものを売っています。数も多い。それから、例えばいろいろな設備も、例えば乗馬サービスを持っているとかですね。プールを持っているとか。そういった設備も多いということがあって、この階層がやはり一番積極的に取り組んでいるということがあります。アパートメントというのは、人手がかからない分、やはり大規模農家がそういうものをやりたがる。人手をあまりかけなくてもよくて、お客さんたちが自分で料理してくれるということがあって、収入源にはあまりならないけど、労働力のないところはこういうアパートメント形式の経営をやっております。それから、規模のあまり大きくない農家というのは、部屋形式をやっています。施設的にあまり余裕がない農家というのは、こういうところを指向します。


開始前の職業というのが図3で、これが先程お話したところですが、42%経営者の人たちはUターン、Iターン者が多いということがあって、これが大きな活動の原動力になっている。つまり新しい感覚で、経営感覚で、農家の経営をやれるという人たちがアグリツーリズムに取り組んでいる。従来の物を作って売るだけのそういう農家ではなくて、都会の人を自分のところに受け入れて、それで喜んで満足して帰って、ストレス解消して、リラックスして帰っていってもらうということをおこなっている。そういった人たちがこういったところから出てきている。優れた経営感覚を持っている人たちと言えると思います。



そこで、彼らがどういう経営者としての意識を持っているかという点を聞いてみました。まず、ルーラルツーリズムと一般のホテルとの競合関係が激しいので、アグリツーリズムに対する長所について、自分たちは何だと考えますかということを聞いたのですね(図4)。経営者が答えるには、田舎の良さだというふうに答えています。それから、家族的な雰囲気だというふうに答えています。私これと同じアンケートを日本の民宿にもやったことがあるのですが、日本の民宿で答が一番高いのは、ここの料金が安いという点です。つまり、安かろう悪かろう的な発想で勝負しているというのが日本の農家民宿ですね。イタリアのアグリツーリズム農家というのは、こういうところであまり勝負しない。つまり、自分たちが何を提供すれば、お客さんたちが喜んでもらえるのかということをよくわかっている。自分たちの強みをよくわかって経営をしているというのが特徴だと思うのですね。このグラフはそれをよく表しているのではないかと思います。


次に短所についてはどうなのか。ホテルに比べて短所は何なのか。どういったところが弱点なのかというのを聞いてみました(図5)。そうしたところ、日本では、収容能力が小さいとか、洗練されていない、この辺が多かったのですが、これに対して、結局一番割合が多かったのは、「特になし」ということで、つまり、自分たちのウィークポイントというのはあまりないというふうに思っている。物理的な、例えば収容能力が小さいとか公共機関がないとか、これは田舎だから仕方がないというのがありますね。水の利用というのもそうだと思いますけども、「特になし」というのが22%占めているというのは、結構注目すべき点ではないかと思います。つまり、それだけ長所を自覚しているということで、先程の長所の裏返しの現れではないかというふうに思っています。それだけ自分たちの活動にも自信を持っているということだと思います。




しかしそうは言っても、競争関係というのはどんどん激しくなって来ていますので、今ウンブリアで新しい対応として出てきているのは、以下のようないくつかのことです。第一は、社会的マイノリティへの対応。例えば障害者を受け入れよう、バリアフリーにして受け入れるようにしよう。それからベジタリアンの人にも来てもらって、ベジタリアンメニューを出してみよう。そういうようなことです。これはもちろんこういった人達に機会均等のサービスを提供するという意味もありますが、経営的にはやはり従来掘り起こされていないニーズを引き出して、ニッチと言うかすき間市場みたいなところですけど、そういう新しい市場を開拓しようという、試みでもあるわけです。こうした2つの意味合いがあるのではないかと思います。


それから、競争が激しくなっていることで、クオリティに関する情報提供が必要になってきています。そこで、穂の数、ホテルが星ですが、農家なので麦の穂で区分して、格づけを導入しようということを今考えています。これは、いろいろな試みがあって、州ごとにやるのではなくて、やはりやるのだったら全国的に統一した方がいいのではないかという議論もあるのですが、イタリアのことですから、議論百出、まとまらないのではないかというふうに見る向きもあります。できるとすれば、多分州単位でやるのではないかというふうに思います。ただこういう方向にあるということは事実です。クオリティを区分して、より厳密に区分して、お客さんに情報提供しようということです。そういう方向になってきています。


それから、良い面と悪い面の両面あるのですが、やはり競争が激しくなっているということで、トイレ、バスをつけているとか、それからプールが増加しています。私94年に初めて調査を始めた時には、プールは20%くらいだったと思います。今年行ってデータを整理してみますと、4割のアグリツーリズム農家がプールを持っていました。つまりそれだけ施設型になってきている。施設投資が大きくなっているということで、これはお客さんを引き付けるという面もあるのですが、小規模農家にとってはかなり負担になる。特にプールというのは、水の浄化装置もつけなくてはいけないとか、かなりの投資になりますので、必ずしもいいことではないということがあります。この点はやはり施設競争になりかねないというところがあって、危惧しているところです。


それともう1つは、経営の中身自体も、例えば有機農業をやったり、減農薬をやったり、そういうようなことで、経営の中身を変えて、アグリツーリズムと結びつけることによって、差別化を図ろうという、そういう試みもあります。ですからアグリツーリズムだけでお客さんを引き寄せるということよりも、農家経営全体を変えて。それによって農家全体を差別化してしまおうという試みもおこなっています。



イタリアのアグリツーリズモから学ぶ意義


以上が最近のイタリアおよびウンブリアのアグリツーリズモの大まかな展開なのですが、では私たちがそれから何を学べるかということで整理してみます。まず、必ずしも競争というのは悪くないと思います。新しい活動に農家が目覚めていくという、新しい可能性を見いだしていくという効果もあるという点は注目してもいいわけです。それから、グリーンツーリズムというのは単に農村の活性化だけの意義があるわけではないと思います。ストレスの多い都市生活者、最近の犯罪の凶悪化、それら満員電車の痴漢の頻発といろいろ都会生活も負の側面がありますが、こういうストレスの多い都会生活者に安らぎ、リクレーションの場を与えるのが、グリーンツーリズムだと思います。それによって、新しい都市と農村の関係が築かれると思います。


それからやはりアグリツーリズムで注目する点は、彼らはかなり伝統文化にこだわっているということですね。伝統的な料理、田舎の料理をお客さんに提供したり、伝統的な農産物を売っていくということです。別に新しいことをやっているわけではありません。しかし、そのこだわりが新しい地域性を作っているということだと思います。このこだわりの中から革新性が生まれてくるということだと思います。伝承文化、やはり文化を伝承することの重要性というのは、彼らから学ぶことが非常に多いと思います。


それと、就業の場を提供しているという点は大きいですね。これは、日本でも今や農業


への新規参入者というのは6万4千人になりました。90年代になって、どんどん増えてきています。日本でもイタリアと似たような状況になってきました。これは一面では確かに不況で、都会の職がなくなって、リストラされるなどということがあって、田舎に帰ってくる人が、帰らざるを得ない、田舎で職を求める、可能性を求める人が増えているということでもありますが、そういうネガティブな側面だけではなくて、積極的に田舎で生活をして、働いて生活をするという人達も、日本ではすでに6万4千人もいるということですね。一時は1万人台に減ったわけですが、それが今、年々増加してきているという傾向があります。これは日本でもこれからやはり新しい生き方として注目すべきではないかと思います。


上をまとめますと、私の研究テーマにしています都市と農村の新しい関係、安定的な地域社会を実現していくために、特に日本の場合には都市と農村の人口格差というのは、イタリアよりはるかに大きいわけですので、その意味で、アグリツーリズムが持っている可能性というのは非常に大きいのではないかと思います。


いうことで、一言で言えばやはり自分たちの文化、田舎の文化にもう少し自信を持っても私たちもいいのではないか。それに革新性というものが結びついた時に、都市と農村との新しい可能性が21世紀に見えてくるのではないか、というのが私の最後のメッセージです。ありがとうございました。




それではつぎに、文字だけではつまらないと思いますので、スライドを20枚くらい見て頂きたいと思います。


これは、ペルージア大学の農学部です。ご承知のとおりウンブリアというのは中部ですので、教皇領だったものですから、教会の大規模な農場を持っているのですが、この大学も二千ヘクタールくらいの大きい農場を持っていますが、それは元々教会の所有物だったわけですね。教会の中でそういう農場経営、神父さんたちが農場経営をやっていた。それが農学部の始まりです。非常に歴史があります。


これが農学部のキャンパスです。この間地震があってひびが入ったりしたのですが。イタリアの場合5年制ですね。5年生で卒業できる。だいたい卒業できるのは3割くらいということで、かなり卒業するのは厳しいですね。


これはアシッジです。ウンブリアの農村風景です。


これは灌漑をやっています。河川灌漑ですね。ウンブリアはペルージアがだいたい真ん中にありまして、ペルージアは谷になっていまして、ウンブリアの両側がちょうど山になっていると。これはアペリン山脈の方で、こういう傾斜地がかなり、日本の山間地域、中国地域なんかと似たようなところがあります。キャタピラ付きのトラクタで耕作するというような、そういうことまでやっているところですね。条件は非常に悪いところもあります。


これは私たちが聞き取り調査をやっているところですね。アグリツーリズムの農家で、こんなことで聞き取り調査をやってデータを集めました。


これは、アグリツーリズム農家ですね。かなり大規模な農家ですけれども、この内部を改装して、アグリツーリズムとしてお客さんに提供しているところです。


これは小規模な農家ですが、3ヘクタール位の農家なのですが、庭をこういうふうに芝生にして、ミニゴルフというかそういうものでお客さんが遊べるようにしています。


これは、古い農家、300年位前の農家を改築して、アグリツーリズムを始めたところですね。法律で窓の数とかは増やせないのですね。新しく建てることはできないのです。修復して使うというのが、アグリツーリズムの前提条件になっています。新しく作って、そこにお客さんを呼ぶことはできないということです。


こんな感じの、これは廃屋ですが、農家の廃屋、こういうのがたくさんあります。離農した跡地、こういうところに新しく土地を買い取って、アグリツーリズムを始める人たちが増えているということでありまして、これはその単なる廃屋ではなくて、新しい可能性を秘めた地域資源というふうに言ってもいいのではないかと思います。


これもそうですね。廃屋になって、古くなると天井が落ちたり、梁だけが残っているというようなことがあるのですが、内部をかなり改装して、お客様が泊まれるようにするということです。


改装するとこういうふうにきれいな形になります。


これはアパートメントの内部です。右の方の端に見えるのがシンクですね。シンクとガスレンジがあったと思います。冷蔵庫があって、ちょっとしたテーブルがあります。料理が自分たちで作れます。


ここは大規模な農家の奥さん。おかみさんというか、おかみさんといったら失礼ですね。叔父さんが日本の駐日大使をやっていたということで、かなり名門のようです。塔が建っていまして、それが1200年前の塔だと言っていました。施設を遊ばせておくのはもったいないのでアグリツーリズムを始めたと言っていました。金儲けするのはそんなに目的ではないようです。大規模農家だとやはりそういう感じなのですね。ただし、人手がないため、余り人手をかけたくないので、アパートメント形式で、後は勝手にやってくれというそういう感じのところです。


ここは小さい農家なので、こういう肝っ玉母さんが料理をして、一生懸命サービスをしているというタイプで、先程のアパートメント形式とは大分雰囲気も違って、イタリアの本当のマンマの作った料理を食べさせてもらえるという、アットホームな感じですね。和気あいあい主人と一緒に食事もできるという感じです。


これはアパートメンとの外からの風景ですね。前にいすなんかが出ていて、くつろげるようになっています。内部は先程お見せしたようなキッチンがあります。何部屋かあります。2~3部屋あるところもあります。


これはプールですね。普通のプールと違うのは、回りがオリーブ畑だということです。薄緑色の木はオリーブです。オリーブ畑にプールを作るというのがいかにも農家らしい。こういった古い農具をわざと置いて、農家らしさを演出しているということですね。使えるものは何でも使おうということですね。そういう貪欲さがあります。


これはファームショップと言いますか、農家が自分の納屋を改造して、物を売っているところです。お土産品を売ったりしています。これはサフランを作っている農家がありまして、サフランを作って売っています。量り売りしたりして、瓶詰などがありまして、売ったりしています。


これはリビングですね。皆さんこういうところに集まったりして、談笑したり。これは暖炉です。上に置いてあるのは昔のアイロンだと思います。部屋ごとにカーテンの色などを変えて、かなりインテリアには気を使っております。


これはやはりガスレンジがあるところですね。アパートメントの内部です。


これもアパートメント。これは小さいです。たぶん2部屋か1部屋位だと思います。これは農家の地下なのですが、自分でワインを仕込んで、お客さんに出しています。もちろん売ってもいますし、お客さんに飲んでもらうということです。


これは経営者。レストランで撮った写真です。


これも別の農家ですが、自分で作って、プロシュートを作っているところですね。料理に出したり、欲しい人があれば売って、それを収入にしています。


これはオリーブ油。自分のブランドで売っている。ですから、市場に出すより高く売れる。自分のブランドで出せるので、加工は委託するのですが、自分のブランドで出しています。ウンブリアは非常にクオリティのいいオリーブが取れるということで有名ですので、買っていく人がいるということで、オリーブの市場自体は、もうヨーロッパでは飽和状態なのですが、こういうふうに庭先で販売すると、売れていくということです。


これはハニーです。これもとって、自分のところで加工して瓶詰して売っています。


これは食堂ですね。やはり農家らしさは、こういう壁に掛けてあるのは、何かやはり昔の農具だと。農家の食堂というふうな演出を意識的にやっています。


これは調理場ですね。


これも奥さんですね。やはり衛生基準がうるさいので、料理をする時はこういう食堂のおばさんみたいな格好をしています。髪をちゃんとして。


この農家は非常に料理が有名なので、お客さんで土日はいっぱいになるところです。


これも先程300年前ということでお見せした内部です。農家の内部で、前にあったのを改築して、こういうふうに食堂にしています。これは94年に撮ったものですが、この間も行って、ごちそうになってきました。ただ地震がありまして、ちょっとひびが入っています。ここの農家、この棟は良かったのですが、自分の住んでいる母屋が全壊しまして、自分の住んでいるところは再建中だと言っていましたが、けががなくて良かった、と言っていました。娘さんがいまして、チアニの学生で、卒業したらアグリツーリズムをやると言っています。この農家のベッドはこうですね。非常に質素で、テレビも何もありません。冬は寒いので、だいたいは暖房器具が入っていますね。非常にシンプル、清楚な感じ。


これはまた別の農家ですが、非常にアンティークな感じで整えていまして、ベッドだけです。非常に簡素というか、そういうところをわざと演出しているのだと思います。テレビがないところが多いですね。


これもそうですね。アンティークなベッドで整えているということです。


いうことで、こういう古い屋根の落ちて朽ち果てたようなものも、今までは単なる離農の跡地の見苦しい風景という、うらさびしい風景という感じだったのですが、今や新しい可能性を秘めた地域資源として見直されているということです。これが新しいアグリツーリズム農家に変わり、農村が変わっていくというのを見るのが私、毎年ウンブリアへ行くことのが楽しみであります。


上です。どうもありがとうございました。



質問大変興味深く聞かせて頂きました。いろいろ改修するのに、非常にお金がかかるのではないかと思うのですが、公の機関からの援助金とか補助金とか、アグリツーリズムということに関して、税金的なことでどういったような制度があるのかというのをお聞きしたいと思います。




大江イタリアの場合は、補助金制度があって、農家に補助が出たりするのですが、ただやはりイタリア独特の行政機構の複雑さといいますか、非効率、コーディネーションが悪いということがあって、あまりあてにされていませんね。出るのにひどい時は5年位かかるとか、そういうようなことがあって、欲しい時に来ない。それから申請の書類が膨大で、免税措置を受けるために、書類作りが大変だとか、そういう不満というか、苦情というのが、私たち調査の時にたくさん聞きました。確かに補助制度はあるのですが、余りうまく機能していないというか、そういうところがあります。それから、政党的な、政治的な党派で多少意識的に仕分けされてしまうとか、そういうようなこともあるらしくて、その辺がちょっとイタリアの行政システムの問題点として現れているのではないかと思います。ということで、そういう資金的な援助というよりも、やはり先程お話した州政府が、例えば文化的なイベントをプロモートしていくようなソフト面のバックアップというか、そういう点に私たちは学ぶ点があるのではないかと思います。行政のシステム、それから補助金を出したりするシステムなどは、ドイツや日本などかの方がずっと効率がいいと思います。ただ、日本にないのは、彼らはもっとソフト面に力を入れているという、行政がソフト面からサポートしているという点が学ぶべき点ではないかと思います。




質問大変いいお話をありがとうございました。お話を伺っているうちに、ぜひ一度はアグリツーリズムに行ってみたいという気が起こるわけですが、具体的にカタログとか、今日本にも大分ガイドが出ていると思いますが、では自分がどこへどういうふうに行ったらいいかという、具体的にどういう方法があるかということが1つ。それから、お値段なのですが、だいたいアグリツーリズムいろいろあると思いますが、ごく基本的にと言いますか、一般的に1泊いくらとか、1週間いくらとか、教えて頂ければと思います。




大江アクセスがやはり田舎なものですから、まず不便だというのは確かにございます。一般の都会のホテルとは違いまして、駅からスーツケース引っ張って歩いて行けるというものではありませんので、その辺がやはりちょっと問題なのですね。駅に近いところだったら迎えに来てもらうという可能性もあるのですが、農家も忙しいと、自分で来てくれということもよくありますので、なるべく駅から近いようなところを選んで、タクシーで行ってみるということがあるかと思います。あるいは、事前に迎えに来てくれるかどうか確認できればいいのですが、カタログは、インターネットを使うというのが1番、もしお使いになればインターネットで検索できますので、アグリツーリストとか、テラノストラとか、ツーリズムベルデというようなところを検索して頂くと、インターネットでも予約できるようなところもあります。それで、そこに農家のどういう条件で泊まれるのかというのも情報提供がありますので、そういうところで検索するというのがあると思います。


もしインターネットをお使いにならない場合には、フォトジャーナリストの篠利幸さんがガイドブックなど出しておられますので、そういうのをご覧になって、「イタリアの田舎に泊まる」という本がありますけど、おもしろい本ですから、写真家ですからおもしろくおかしくきれいに撮ってあります。後は、ガイドブックは日本では手に入りますかね。ないですね。私持っていますけど、それは自分で手に入れたということで、向こうから買ってきてもらったりしたものですが、イタリア政府観光局に行けば、州ごとで出している、例えばウンブリア州政府で出しているアグリツーリズムのカタログというのはございます。そういうのをイタリア政府観光局に行って、情報収集してみる。日本ではそれが1番いいかもしれません。後は近畿ツーリストなどが、アグリツーリズムのツアーなどを始めているようですが、私はちょっとそういうのは参加したことがないのでわかりませんが、大手の旅行代理店でも最近そういうのに興味を持っている。商品開発をやっているところがあるようです。


値段はこれはピンキリです。1泊25万リラとかというのもありますし、1泊5万リラ位からなんていうところもあります。もっと安い3万とか3万5千位からのもあります。素泊まりで行けば。それで、だいたい平均的なところで、フルペンショーネというか、朝食と2食ついて10万から12万とか。10万から15万位出せばいいのではないでしょうか。ホテルに泊まるよりは絶対安いと思います。ただ設備のいいところになると、かなり高いところもあります。先程アンケートでお見せしましたように、彼らは値段の安さでは勝負していませんので。自分のサービスに見合った値段をもらうというふうにやっていますから、サービスがいいところはそれなりに、ホテルみたいにウェイターがつくところもありますし、それが果たしてアグリツーリズムなのかというのがいつもあるのですが、またプールなどを作ったり、設備投資に最近お金がかかるようになってきてますので、どうしても値段がそれにはね返ってくるというところがあります。なぜプールばかり作るのかと聞くのですが、それはドイツ人がプールをほしがるのだよというのですね。ドイツ人を受け入れようと思うと、プールを作らないとだめなのだと。私何回かウンブリアに行くと、いつも行く農家があるのですが、この間やはり行ったらプール作っていたのですね。やはり同じことを言っていました。そこでドイツ人にそれ聞いてみたのですが、この間アグリツーリズムの私の相棒のチアニが、アグリツーリズムの国際会議というのをやりまして、アグリツーリズム協議会というか、アソシエーションを作ったのですね。立ち上げたのです。私もそれもかかわっているのですが、オーストリアのアグリツーリズム組織の人が来まして、僕聞きにいったのですね。オーストリアのアグリツーリズムの農家には、プールなんか全然ないのに、なぜドイツ人はイタリアへ来ると、「プール」「プール」と言うのだと聞いたら、それは暑いからだよと。確かにそうかなと思ったのですが。そういうことがあるようです。


ですから、多少一般的に言って、値段の件に関しては、アクセスの悪い分、値段は安いと思います。ただ、設備が充実していれば、それだけ高くなるということはあると思います。ただ値段はちゃんとカタログに載っていますので、それでぼられたりするというのはないと思います。




質問アグリツーリズムが成功するかどうかというのは、都会人にとってどれ位魅力的かということにかかっていると思うのですが、日本のことを考えた場合に、現在の農村の環境を考えると、家もかなり都会的な家に変わっているところも多いし、川はコンクリートで護岸されているということで、都会人にとってどれだけ魅力的な環境や景観を提供できるかということで、日本のアグリツーリズムのポテンシャルについて、多少私は疑問を感ずる点もあるのですが、そういう点についてどうでしょうか。




大江今のご質問、非常に大事な点なのですが、実を言うと私も、私これに最初かかわったのは、農水省の研究機関にいた時に、広島県の農協の中央会というのがございまして、県の組織なのですが、そこでアグリツーリズムの研究会をやるから、試験場から誰か人を出してくれと言われて、私いやいや行ったのですね。それで、要するに、同じことを考えました。そんな休暇も取れないような日本で、田舎に何でそんな都会の人が来たいと思うのだろうと、私は最初の会議でそういうふうに言ったのですが、いろいろ議論しているうちに、これはばかにしたものではないというか、私研究者ですので、研究者としてどれだけ可能性があるのかというのをやはり追求してみたいというか、追求しなければいけないのではないかというふうに思いまして、余りネガティブに、否定的に考えるのはよそうというふうに思ったのですね。それからこういうことをやっているのですが、私いろいろなところでこういうお話をすると、必ず同じ質問をされます。私自身もかつてそういうことを考えたものですから思うのですが、確かに条件は悪いです。長期休暇制度も今は日本にはないですし、私自身もそういう情けない状況ですけども、ただ、これから少しずつ変わっていくと思います。例えば先週私長野県の飯山というところに行ったのですが、あそこは市がかなり積極的にスキー民宿振興をずっとやっていて、それがスキー民宿がバブルがはじけて、スキー客がどんどん落ち込んでいるのですね。それで新しい展開が必要だということで、グリーンツーリズムを積極的に今推進していまして、まだそれほどたくさん夏場に営業しているという農家は多くはないのですが、やはりイタリアのアグリツーリズムと同じようなことを考えてやっている農家が少しずつ出ています。彼らはやはりいろいろな試行錯誤をして、それでやはり同じような考え方にたどり着いていますね。最初は都会の人が来ると、もうつきっきりでもてなしたり、いろいろなところに案内したり、それが1年、2年くらいまではいいのですが、3年、4年になってくると、疲れてとてもやって行けないのですね。疲れたのですね、やっている方が。過剰サービスになってしまう。気がついてみると、お客さんもそんなに満足しているわけではない。もっと放っておいてほしいということがたくさん出て来た。


実際に彼らを放っておいてあげると、自分たちが喜んで、例えば田んぼの回りを散歩したり、虫を捕ったりして、やはりそういうことが大事なのではないかということに、少しずつ気がついています。おもしろいことを言っていたのですが、今田んぼの脇に柿がたくさんなっています。田舎では高齢化して過疎化しているので、とる人がいない。柿はもう赤くなって、ただ朽ちて鳥の餌になるだけなのですが、こんなにたくさんあってもったいないからといって、柿とり大会をイベントで企画したそうです、その農家の人が。そうしたらたくさん応募があって、柿の木が足りなくなった。それで、自分たちはただ竿を用意しただけだ。みんな都会の人が来て、おもしろがって柿を落としていった。満足して帰っていった。これがやはりアグリツーリズムなんだなというふうに気がついたというのですね。その人はもう10年位やっている。最初はつきっきりでいろいろな世話をして、疲れきってもうやめようかというふうに思いつつ、いろいろな試行錯誤をして、そういうところにたどり着いた。彼らは今感じていることは、イタリアのアグリツーリズムがやっていることとまったく同じなのですね。だからそういう農家が少しずつ、本当に少ないのですが、例えば1町村に1人とか2人くらいしかまだいませんが、少しずつそういう人たちが増えてきているということは事実です。彼らが今1番ねらっているのは何かと言うと、2002年なのですね。2002年というのは何かと言うと、小学校で土曜日が全部休みになる。そこに新しい可能性を見いだしているのです、彼らは。だから日本も捨てたものではないと思います。歩みは遅いかもしれないけど、確実にそちらの方向に進んでいるのではないかというふうに感じています。




質問私北海学園北見大学の長手と申します。大江先生ほど勉強してないのですが、数年前から少しこのアグリツーリズムに関心があって、調べているのですが、今いろいろ皆さんのご質問なども聞いて、今日は大江先生が明快にお話になったので、疑問ということはないのですが、ひとつ時間の関係で余り触れられなかったと思うのは、要するにアグリツーリズムの女性の役割のような点だと思うのですね。これは特にイギリスとかフランス、ドイツの方がそうなのかも知れませんが、イタリアも少なからずそうだと思いますが、やはり主役は女性であると。特にレストランとか食の方は、そして半分やはり農業を必ずやるというのがイタリアのアグリツーリズムですから、そうすると、旦那は農家をやっているのだけど、奥さんはもう専業ツーリズムの方であるというのがあって、日本もその辺をもう少し何か、それこそイタリアに学び、欧州に学んで、やり方を考えるべきなのではないかと。


特に日本だって、郷土料理でいいものがいくらでもありますし、そういうものを都会の人が食べに行くような感じになれば、今の週休2日制もあるし、私もまさに21世紀は、遅々たる歩みだけども、日本もそういう方向に行かざるを得ないのではないかと。特に都会へ都会へと皆20世紀来たわけですから、そのうち2代目、3代目、故郷を失ってしまっているわけですよね、東京人は特に。そうすると、絶対に故郷へ、祖先のいたところへ帰ってみたいとか、1度は行ってみたいとか、そういう流れはもうでてくるに決まっているではないかという気を私はしているのですね。その辺、ただその遅々たる日本の歩みの改善に、少し拍車をかけるためには、やはり日本人はお金にやはりすごくこだわりますから、逆に補助という面をもう少し考えなくてはいけないのではないかと。地方自治体にしても。そして特に私北海道にいるものですから、あの広い北海道で、たった25~6軒しか、イタリアの定義でいうアグリツーリズムがないのですね。もちろんルーラルツーリズムを入れればもっと多くなるのでしょうけども。何かコメントをいただければと思います。




大江どうもありがとうございます。長手先生に聞いて頂いて光栄です。今の最初のご指摘の点、女性の役割というのは非常に大事です。今日は触れてないのですが、それも非常に奥深いところがありまして、イタリアでアグリツーリズムを政策的に進めていく場合の、1つのポイントはそういうところになります。やはり女性の地位を、経済的な地位を向上して、それで発言力、経営の中での、イコールパートナーとしての役割を担ってもらう。そういうところがやはり期待されています。ただ、これはその半面注意しなければいけないのは、オーバーワークになってしまうということがあります。これは、女性にやはり非常に負担がかかってしまうのですね。料理、それから部屋の掃除、シーツの洗濯、接客、全部対応しなければいけないということで、倒れてしまったという農家もいます。先程シシリーの農家はそういうケースです。奥さんが倒れてしまった。最初は2人で始めたのですが、結局精神的にももう疲れきってしまったということもあって、今は奥さんからはまったく手を離れています。その代わり、村から人を雇って料理を作ってもらったりしているということで、それが逆に地域への波及効果になったりもしているのですが、経営のイコールパートナーとしての役割は、今は果たせなくなっているということもあります。ですから、やはりものには両面ありまして、確かに経済的な面でも地位上昇というのはあるのですが、オーバーワークにならないという点が、やはり夫がうまく協力していく必要があると思います。そうしないと、単に本当にオーバーワークになって倒れてしまって、逆に経営としての可能性を失ってしまうということもあります。私は日本でもそういう例を見ています。その辺はやはり気をつけなければいけない点だと思います。ただ長期的にはやはりそういう活動が、女性がイニシアティブを握ることで、経営の中心が女性に移っていくということも、日本でも起こっています。私そういう農家を知っていますし、今経営の主導権を、アグリツーリズムを始めてから、経営の主導権が完全にお母さんの方に移ってしまったという、そういう農家も出てきています。日本でも。ですから、新しい形で、だからそういうことから言うと、イコール男女共同参画と今言われていますが、男女共同参画というのは、アグリツーリズム農村の方がはるかに進んでいく可能性、都会より進む可能性があるかもしれません。考えようによっては。そういう可能性もあるのではないかというふうに私思っています。ですから、そういう意味でも、アグリツーリズムの意義というのは大きいと思います。




質問私はイタリアのミラノの方で旅行業と貿易の方をやっていて、今日初めてここへ来させて頂きまして、先生のご講義非常に興味を持ちまして、私どもイタリアの方で商売をやっておりますので、日本の方のアグリカルツーリズモ希望者がどのくらいあるのかとか、それからまた日本人が来た時の対応ですね。この辺りが非常に、私は2~3年前からアグリツーリズムというのは非常に日本からお客さんが来られるのではないかと、非常に興味深く、うちの社員の方にもいろいろと指示をしていたのです。ところがやはりよく考えますと、まず1つ、イタリアの場合はほとんど1週間も、だいたい夏の場合特に、夏休みの場合だいたい1週間とか2週間を対象にそういうものを考えるわけなのですね。日本のお客さんでそれだけお休みになって、1か所で滞在できるかというと、なかなかそういう場合がないわけなのですね。何回か私たちもイタリアの方へ問い合わせしましたけど、3日だとか5日のお客はいらないということがよくあるわけなのですね。


それともう1点は、日本のお客様から言わしますと、必ず言われる言葉が、まずおふろが充実してないと。ほとんどシャワーだけなのですよね。田舎の場合は。それが1点。後は言葉の問題ですか。こういった問題もありまして、メンタリティの違いというのもいろいろあるわけなのですが、昔と比べましたら大分日本にもイタリアレストランができたりとか、いろいろなイタリアブームが起こっていますが、それと後この間もびっくりしたのですが、イタリアデーという百貨店さんでやられていますが、その時に食料品売り場はこれが満員の状況で、私がだいたい25年前にフランス料理を駆逐して、イタリア料理が日本で最も盛んになるだろうと予言したのですが、その時は皆さんに笑われたのですが、今本当に私の言ったことがまったくその通りになった。


もう1つ、私最近イタリアの温泉の方を非常に今研究しておりまして、特にベニスの近くパドヴァの近くにアガノテルメとございますが、そこには世界各国からご老人が見えて、アメリカ人、フランス人、いろいろな国の、特にドイツ人が多いのですが、そこにものすごい100軒位の高級ホテルだとか、1級からだいたい高級まであるわけなのですが、そこに車でいらっしゃって、そこからいろいろな農村を見に行くというあれが非常に増えているわけなのです。パドヴァというところからベニスまで38キロですので、そういうところで、この間そこの経営者と懇談会を持ちましたら、日本人を誘致するにはどうしたらいいかと言うから、それは簡単だよと。日本人は温泉が好きで、ただし、3日もいると日本食がなかったらだめだという話になるわけですね。じゃあ早速アガノテルメに日本レストラン誘致してくれという話を持ちかけられたのですが、その他にまだトスカーナとローマの中間に最も有名なテルメ・ディ・サトルニアという温泉があるのですが、そこは最近日本でもこの間テレビでやっていましたが、その滝、温泉が流れて、それで滝になったところに、皆さん余りお金のない人はそこに泳いで来たりとか、で、回りの農家に泊まったりして、楽しむという、そういう姿を最近見ましたけど、そういうことで、日本には世界的な温泉がこれだけあるわけですから、先程先生のおっしゃったことプラス、温泉プラス農家の組み合わせというのが、今後非常におもしろいのではないかと。




大江ちょっと補足させてください。やはりイタリアの、私本当イタリアへ行くといつも言われるのですが、どうやったら日本人呼べるのだと。日本人呼びたいのだけど、いつもそういう話ですね。日本にワインを売りたいとか、そういう話ばかりなのですが、アグリツーリズム、かなり真剣に日本人を誘致するということ、引っ張ってこようということを考えていまして、特にトスカーナなどですと、日本で市場調査まで今度やろうというようなことを言っていました。ですから、日本人の好みに合わせた、例えばメニューとか、どういうふうにしたらいいかということを、彼らなりにかなり真剣に考えようとしているということも事実だと思います。おっしゃるとおり日本人は温泉好きですので。ただ、ヨーロッパではアグリツーリズムというのは基本的にニッチ、すき間市場だというふうに言われていますので、ですからお客さんになるのは、高学歴、高所得の、小学、中学校くらいまでの子供のいる家族世帯、そういう人たちが主なターゲットになっています。というのはあると思いますので、日本でもそういうところがあるかもしれません。日本のアグリツーリズムにも同じようなことが言えますので、ただ日本からイタリアへ行く場合にどうなるかというのは私もわかりません。その辺はもう少し市場調査をやってみる必要があるでしょうね。





この講演内容は印刷物としても発行されています。


イタリア研究会報告書No.89

2001年6月10日発行

企画編集 イタリア研究会

発  行 スパチオ研究所・伊藤哲郎

     (目黒区青葉台4-4-5渋谷スリーサムビル8F)

事 務 局 高橋真一郎

     (横浜市青葉区さつきが丘2-48)