第403回 イタリア研究会 2014-01-17
支倉常長の旅,肖像画の謎
報告者:成城大学 石鍋 真澄
403回例会
・日時:2014年1月17日(金)19:00-21:00
・場所:東京文化会館4階大会議室
・講師:石鍋 真澄 成城大学
・演題:支倉常長の旅,肖像画の謎
講演記録ではなく「講演レジュメ」です。
「支倉常長の旅、肖像画の謎」
石鍋真澄
(2014年1月17日 上野文化会館)
✴昨年(2013年)は慶長遣欧使節出帆400年記念の年で、仙台市博物館の「伊達政宗の夢 慶長遣欧使節と南蛮文化」展など、多くの記念行事が行われました。また、昨年6月には、支倉常長の肖像画など使節関係資料がユネスコの世界記憶遺産に登録されました。今回の講演もこうした機会にちなむものです。
✴講演では、まず、慶長遣欧使節と南蛮文化について、基本的なことがらを整理してお話ししたいと思います。
✴広くは、鉄砲伝来(1543)とザビエル渡来(1549)から、鎖国(ポルトガル人渡来禁止1639)まで、特に天正遣欧使節派遣(1582)から家康の禁教令(1614)までを、南蛮文化の時代と考えることができます。
✴南蛮文化時代の中核となった時期の最初と最後の時期に、天正遣欧使節と慶長遣欧使節の2つの使節が送られ、ヨーロッパの地に日本人が足を踏み入れました。しかし、コレヒオでキリスト教文化を学んでいた4人のエリート少年(13、14歳でした)と、40歳過ぎて貿易交渉をする大使として派遣された支倉常長、2つの使節はたいへん性格の異なるものでした。
✴伊達政宗の慶長遣欧使節派遣は、1613年、大坂冬の陣と家康の禁教令の前年という、微妙な時期に行われました。またスペインとイギリスの対立、イエズス会とフランシス会の抗争など、当時の複雑な歴史の中で実現したのです。その歴史的意義をどう考えたらいいか、難しい問題です。
✴次に、スライドを見ながら、ヨーロッパにおける支倉常長の旅をたどってみたいと思います。常長はどのようなところに行き、どんなものを見たのか、ローマでは、どのような体験をしたのか、簡単にお話ししたいと思います。
✴ハポン姓で有名なコリア・デル・リオやセビリア、ローマで常長らが宿泊したサンタ・マリア・イン・アラチェリ修道院(Basilica di Santa Maria in Aracoeli)などについてお話しします。
✴話の後半では、支倉常長が描かれた仙台とローマにある2つの肖像画と、ローマのクイリナーレ宮の壁画について、少し詳しく話したいと思います。
✴天正遣欧使節では、本格的な肖像画は描かれませんでしたから、肖像画が描かれたこと自体、慶長遣欧使節がどう受け止められたかを示しているといえます。
✴仙台の肖像画は、フランスのナンシー出身のクロード・デリュエという画家がローマで描いたと考えられます。17世紀フランス絵画を代表する画家の一人です。
✴当時としては非常に特殊な肖像画で、支倉常長はキリストと教会に全身全霊をもって帰依する姿で描かれています。一条だけさがったロザリオも気になります。この肖像画には、どのような意味が込められているのでしょうか。
✴一方、ローマの肖像画は、入市式の晴れの衣装を着た常長を描いた、典型的な貴人の肖像画です。紋章や寓意像による、説明的な要素も多々見られます。
✴この作品は、アルキータ・リッチという、ラファエッロで有名なウルビーノ出身の画家が描いたと考えられます。無名と言っていい画家ですが、なかなかよい出来映えの作品です。
✴クイリナーレ宮は教皇の夏の離宮として建てられたもので、現在はイタリア大統領官邸として使われています。その大広間(コラッツィエーリの間)に、パウルス5世時代にローマを訪れた、ヨーロッパ以外の国の使節団が8つ描かれています。支倉常長一行もその一つに描かれているのです。
✴この壁画は、常長一行がローマを去ってから間もなく、アゴスティーノ・タッシという画家が中心となって描かれました。当時最も重要な装飾企画の一つでした。
✴慶長遣欧使節や支倉の肖像画については、まだ多くの不明な点があります。つい最近も、ローマで新しい資料と螺鈿で飾られた洋櫃が発見されたと報告されています。
✴日本以外でも、慶長遣欧使節に対する関心が高まりを見せています。
✴『仙台市史慶長遣欧使節特別編』(2010)の出版とともに、今回の記念行事は、慶長遣欧使節の研究、そして理解や普及の点で、一つの大きな節目になると思います。
(参考文献)
慶長遣欧使節については、濱田直嗣『政宗の夢 常長の現』(河北新報出版センター 2012)が新しい研究を踏まえた最良の入門書だと思います。やや専門的ですが、五野井隆史『支倉常長』(吉川弘文館人物叢書 2003)は最も信頼できる書として定評があります。伊達政宗については、佐藤憲一『素顔の伊達政宗』(洋泉社歴史新書 2012)がとても分かりやすい本です。さらに使節について詳しい事実を知りたい人は、『仙台市史特別編8 慶長遣欧使節編』(2010)を見てください。「支倉常長の肖像画」という私の論考も収められています。また今日の話の要点については、『芸術新潮』10月号(「大西洋をわたったサムライ、支倉常長の大いなる冒険」)をご覧いただければと思います。